肥後ナイフ「春重」
肥後ナイフ「春重」
この「春重」は、小田原城・二の丸広場で開かれていた骨董市で入手した内の1本で、お馴染みの「肥後司」シリーズの隠れた逸品だった。
刻印は、刃の根元付近に小さな「春重」が打たれているのみ。一般的にはひと目で銘が分かるように鞘表に打たれているが、この個体はなぜか閉じてしまえば見えない所に打たれている。
サイズは鞘長8.8㍉。刃材は全鋼のようで、刃厚が2.8㍉とサイズの割に分厚い。
骨董市で見つけた時、どこかで見たような気がしたが、帰宅してじっくり眺めていて思い出した。先に紹介した「無銘の肥後ナイフ」(10月6日記載)と形状がそっくりなのだ。改めて2本を見比べてみると、鞘長や刃厚などほぼ同サイズ。薄っぺらの鞘も同じだった。戦時中か戦後間もない頃に作られたものだろうか。
さらに無銘と思っていた先の1本は、刃の根元付近をルーペで見ると、何と「春」の打刻があった。刻印が斜めに打たれたようで一文字しか刻まれず、しかも小さく薄い打刻なので、てっきりサビ痕だろうと思って見落としていた。迂闊だった。
偶然とは面白いもので、あの骨董市で2本目に出合わなかったら最初の1本は「無銘」のままで終っていたに違いない。思いがけない掘り出し物との出合いに感謝だ。