蔵の春

肥後守・肥後ナイフ・電工ナイフetc

山正肥後守「桜の秋水」

山正肥後守「桜の秋水」
 これまでに蒐集した肥後守・肥後ナイフの中で、私の一番のお宝がこの「桜の秋水」だ。ヤフオクで入手した。出品者は確か九州の方で、8本セットでの出品だった。いずれも古い肥後守類で、その中に初めて見る桜の花びらが打刻された縦折りの秋水が含まれていた。
 「これは何としてでも蒐集しなければ」と使命感のような思いを抱いて入札に参加し、もう1人の入札者の方と幾度となく高値更新を繰り返した末にようやく落札できた。これまでの蒐集活動であの時ほど気持ちが高揚したことはなく、忘れられない一夜となった。
 手元に届いた「秋水」には、確かに「ゝ」の代わりに桜の花びらと思われる3枚が打刻されていた。そこで手持ちの「秋水」を並べて比べると、花びらと「ゝ」の位置が3カ所ともぴったりと合致し、花びらを象る線の一部を隠すと「ゝ」と同じ形状になった。一時期に2ちゃんねるで「秋水のゝは何だ、梵字か」などと話題になり、様々な憶測が飛び交ったが、これで難題が一つ解決したようだ。
 素人なりに推測してみた。辞書で「秋水」の意味を調べてみるとその一つに「曇りのないよく研ぎ澄まされた刀」とあった。おそらく本来は切れ味をアピールするために「秋水」、そして鞘面の全体的なバランスを取るため、その上の部分に桜の花びら3枚を縦に散らしたのだろう。しかし「秋」と「桜」の並びでは違和感があり、苦肉の作として花びらの一部を削り落として使うようになったのではなかろうか、という誠に勝手な推論に達した。
 肥後守の歴史は、残されている資料が乏しく、たくさんの肥後守が製作されていた往時を知る人も少なくなってしまった。このため何か疑問を生じるとほとんどが納得できるまでの解決に至らず、結局は推論で終わってしまう。「桜の秋水」の件に関しても今となっては真意を知ることができない。ご存知の方がおられましたら、ぜひ教えていただきたいのだが…。
 ちなみに小阪氏は、兄で「山平肥後守」の製作者・小阪延雄氏と一緒に仕事をしていたが、その後に独立して山正肥後守などを製作したと聞く。これも勝手な憶測だが、この「桜の秋水」は小阪氏が独立して間もない頃の現存する1本かも知れない。
 鞘長7.7㌢。刃材は所有している秋水はいずれも割込だが、これは全鋼のようだ。

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